「 40年たってようやく正しく決定された天然ガス田試掘権 日中関係の基調は緊張含み 」
『週刊ダイヤモンド』 2005年4月23日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 589
反日デモが多発する中国が、さらに烈(はげ)しく反発しかねない決定を、経済産業省が下した。帝国石油、石油資源開発、新日本石油などに、日中両国の東シナ海における排他的経済水域の中間線近くで、天然ガス田の試掘権を認めた4月13日の決定だ。
同海域では帝国石油などが1966年以来、試掘権を申請し続けてきた。今回の決定は40年たって初めての決定である。日本の国連安保理常任理事国入りや歴史の問題で、中国では官民一体の烈しい反日感情が吹き荒れている。その最中の決定は経産省中枢部の強い意思を窺(うかが)わせるもので、私はそれを高く評価する。しかし、課題も多い。
中間線近くでの資源開発には関係国の利害が密接に絡む。日本政府による海底資源調査でさえも、中国側は複数の船を出し、日本の調査船の前方を塞ぐなど露骨に妨害した。調査の段階から実際の試掘に入れば、中国の妨害はいっそう強まると見なければならない。
今回、ようやく日本政府の許可を得て、帝国石油ら民間企業が試掘に乗り出すとして、彼らの安全は日本政府が担保すべきであり、その仕事には経産省一省の力では不足である。
今年1月22日、中国海軍はソブレメンヌイ級の軍艦を東シナ海に派遣。春暁、天外天などの周辺を航行させ、日本を尻目に威風堂々の示威行動を取った。ロシアから購入した同軍艦は米国さえも手を焼く最新鋭の装備を積んでいる。東シナ海の資源は、軍事力をもってして守り通すと語っている中国に対して、日本側の試掘、その先にくる一連の開発作業の安全を守るには、まず、日本政府が中国政府と同じだけの国家意思を持つことが必要だ。そのために官邸が中心となって、外務省、防衛庁、海上保安庁などとの協力体制を築くことが喫緊の課題である。
日中外交での日本の過去の失敗は、常に半歩または一歩引くことから始まっている。交渉は、日本側が中国側と同じレベル、同じ強さで主張して初めて、両国の主張を取り入れた均衡点で折り合える。こうしたプロセスのなかで半歩でも引けば、その隙から中国は踏み込んでくる。だからこそ、一歩も引いてはならないことを、日本側は重ねがさね自覚することだ。民間企業の作業の安全のために、海保の船で不十分なら海上自衛隊の艦船を同海域に常駐させることを、真剣に考えるべきだろう。
周知のように、中国は東シナ海で一方的な開発を進めてきた。しかし、日本側が開発に乗り出すことが明白になった今、あるいは共同開発を呼びかけてくることも予想される。その際に、私たちは南シナ海での中国の振る舞いを思い出さなくてはならない。中国は、74年1月、南シナ海で南ベトナム(当時)支配下の西沙諸島を軍事力で奪った。次に南沙諸島に触手を伸ばしたのは88年だった、ベトナムが実効支配していた沖合のサンゴ礁を奪い、その上にコンクリート製の永久施設を造り占拠した。
そして日本が阪神淡路大震災に見舞われた95年1月、フィリピンが領有権を主張する南沙諸島のミスチーフ島に中国海軍が上陸、“漁民の避難施設”だといって、堅固な軍事施設を築いた。そうした行動のすえに、中国は南シナ海での共同開発を、ASEAN諸国に呼びかけた。軍事力で島々を押さえ、中国領だと宣言したうえでの“共同開発”である。ほかのアジア諸国の主権的権利や管轄権が認められるわけもない。
中国が日本に東シナ海の共同開発を呼びかけるとき、同じカラクリがあると考えるべきだ。中国に対処する最善の方法は、どんなときにも中国と対等の立場を主張し、あらゆる力をもってそのことを示していくことだ。当面、日中関係は緊張含みだと覚悟すれば、読み違えはない。